高額療養費の自己負担額が上限引き上げでどう変わる？影響や対策を解説。
高額療養費制度とは？自己負担額の基本
まず、高額療養費制度が何なのかをしっかり理解しておこう。これは、医療費が一定額を超えた場合に、自己負担額の上限を超えた分が払い戻される制度だ。つまり、どれだけ高額な医療を受けても、自己負担額には「上限」が設定されているということだ。
自己負担額の上限は、年齢や所得区分によって異なる。例えば、現行制度では70歳未満の一般的な所得の人（標準報酬月額28万～50万円）なら、1か月の自己負担上限は**約87,430円（世帯合算可能）**になっている。ただし、月の医療費がそれほど高額でなければ、この制度の恩恵を受ける機会は少ない。
また、自己負担の仕組みとして「多数回該当」という制度がある。これは、1年間に3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降は負担額の上限が下がるというものだ。例えば、標準的な所得の人なら4回目以降の上限は44,400円に軽減される。
この制度は多くの人にとって助けになるものだが、問題は2024年以降の上限引き上げだ。この改正によって、患者の負担がどの程度増えるのかが焦点になっている。
上限引き上げで自己負担額はどう変わる？
2024年からの改正により、高額療養費制度の自己負担上限が引き上げられることになった。特に影響を受けるのは、現役世代（70歳未満）の中所得者や高所得者だ。
現行制度と改正後の違い
現在、70歳未満の一般的な所得の人（年収約370万～770万円）の自己負担額は87,430円＋α（医療費に応じた追加負担）となっている。
しかし、改正後は最大で月10万円以上になる可能性がある。これは「医療費が高額になるほど自己負担額も増える」仕組みが強化されるためだ。
例えば、医療費が100万円かかった場合の自己負担額を比較すると：
- 現行制度（2023年まで）： 約87,430円
- 改正後（2024年～）： 約100,000円超（引き上げ幅＋数千円～数万円）
さらに、高額療養費制度では**多数回該当（4回目以降の自己負担軽減）**という仕組みがあるが、これも見直しが検討されており、4回目以降の軽減額が減少する可能性がある。つまり、長期的な治療を受ける人ほど負担が増えることになる。
なぜ引き上げられるのか？
この改正の背景には、社会保障費の増大がある。高齢化が進む中で、医療費の国の負担が増加しており、財政の健全化を目的に、現役世代の負担増が求められているのだ。しかし、これによって患者の実質的な負担が増え、治療を受けること自体を諦めるケースが出てくる可能性もある。
どんな人が影響を受けるのか？負担増の実態
今回の上限引き上げによって、特に影響を受けるのは以下のような人たちだ。
① 中所得者（年収370万～770万円）
この層は、もともと高額療養費の上限が「比較的低め」に設定されていた。しかし、改正後は上限が大きく引き上げられるため、実質的な負担が増える。
例えば、がん治療や長期の入院などで毎月10万円近くの医療費を支払うケースも出てくる。以前なら約87,430円の自己負担で済んだが、改正後は10万円を超える可能性があるため、「治療を続けられない」と感じる人が増えるだろう。
② 高所得者（年収約770万円以上）
高所得者の自己負担額も引き上げられるが、特に影響を受けるのは年収約1,160万円以上の層だ。この層は、すでに自己負担の上限が高く設定されているが、さらに引き上げられるため、1か月で15万円以上の自己負担が必要になる可能性がある。
この影響を受けるのは、自営業者や企業経営者など、収入がある程度高くても医療費の負担が重くのしかかる人たちだ。特に、慢性疾患やがん治療を続けている人にとっては、数万円の負担増が治療継続の判断を左右することになる。
③ 長期治療が必要な患者
高額療養費制度には「多数回該当」という仕組みがあり、1年間に3回以上利用すると、4回目以降の自己負担額が軽減される。しかし、今回の改正でこの軽減措置が縮小される可能性が高い。
例えば、人工透析や抗がん剤治療など、毎月のように医療費がかかる人にとって、4回目以降の負担軽減が少なくなると、年間の医療費負担が大幅に増える。これによって、治療の継続を諦めざるを得ないケースが出ることが懸念される。
負担増で治療断念の可能性？対策はあるのか
高額療養費制度の上限引き上げにより、一部の患者が治療を諦める可能性が指摘されている。特に、長期的な治療が必要な人や、家計に余裕のない世帯にとっては大きな負担増となる。では、具体的にどのような対策があるのか見ていこう。
① 医療費の軽減制度を活用する
高額療養費制度のほかにも、医療費の負担を軽減する制度がいくつか存在する。
- 限度額適用認定証の利用
これを事前に取得すれば、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられる。改正後も適用されるため、一時的な支払い負担を減らせる。 - 自治体の医療助成制度
一部の自治体では、独自に医療費の補助を行っている。例えば、子どもや低所得者向けに医療費の補助を実施している自治体もある。 - 傷病手当金の活用
長期入院や治療によって収入が減る場合、健康保険の傷病手当金（最大1年6か月分）を活用できる。
② 医療保険でカバーする
今回の負担増を見越して、民間の医療保険で補填するのも1つの方法だ。特に、がん保険や特定疾病保険に加入しておけば、高額な治療費が発生した際に給付金を受け取ることができる。
また、所得補償保険に入っておけば、長期の療養で仕事ができなくなった場合の生活費を補うことも可能だ。医療費負担の上昇に備え、保険の見直しをしておくのも有効だろう。
③ 医療費控除を活用する
1年間の医療費が**10万円（または所得の5%）**を超えた場合、確定申告で医療費控除が受けられる。この制度を利用すれば、所得税の一部が還付されるため、実質的な負担を減らせる。
④ 分割払いや減免制度の相談をする
医療機関によっては、高額な医療費の分割払いや、経済的に困難な人向けの減免制度を用意していることもある。事前に病院の窓口で相談してみるのも有効だ。
まとめ：今後の医療費負担と対策を考える
高額療養費制度の上限引き上げにより、医療費の自己負担が増加することが明らかになった。特に、中所得者層や長期治療を必要とする患者にとっては、大きな影響を受ける可能性がある。
🔹 この記事のポイント
✅ 自己負担額の上限が引き上げられ、1か月あたりの医療費負担が増加する
✅ 長期治療を受ける人や中所得層が特に影響を受ける
✅ 負担増により治療を諦めるケースが出る可能性がある
✅ 限度額適用認定証や医療保険、医療費控除などを活用して対策を講じることが重要
今後も日本の医療制度は見直しが続く可能性がある。特に、少子高齢化による財政圧迫を背景に、さらなる負担増の議論が進む可能性も否定できない。したがって、現時点で活用できる制度をしっかり理解し、将来的な医療費の負担増に備えておくことが大切だ。
また、負担軽減のためには、公的支援制度の利用だけでなく、医療保険の見直しや貯蓄の計画的な管理も重要になる。家計への影響を最小限に抑えるために、早めの準備をしておこう。
