
2025年春、タケノコの収穫に地域差が。関東は豊作、九州は不作。その理由を表年・裏年や気候変動から探ります。
2025年春の異変?タケノコの「地域差」が話題に
2025年の春、タケノコに関するニュースが全国の食卓をざわつかせている。
「関東では豊作で安いのに、九州では高騰している」――そんな声がSNSやニュースでも頻繁に見られるようになった。春の味覚として親しまれているタケノコに、なぜこれほど地域差が出ているのか。実はこの背景には、「表年・裏年」と呼ばれる収穫サイクルや、気候変動による影響が深く関わっているのだ。
特に九州では「今年はまったく掘れない」と言われるほどの不作に見舞われ、一方で関東では例年より多くのタケノコが市場に出回っている。この“旬のズレ”はいったい何を意味するのか?
本記事では、2025年春に起きたタケノコの地域差について、その背景と原因を分かりやすく解説していく。
タケノコの旬と収穫サイクルを知る
タケノコの旬といえば、一般的には3月下旬から5月初旬にかけて。地域によって若干のズレはあるが、春の訪れとともに地面から顔を出すその姿は、まさに季節の風物詩だ。しかし、毎年必ず同じように採れるとは限らない。そこには「表年・裏年」と呼ばれる不思議な収穫サイクルがある。
「表年」とは、タケノコの収穫量が多い年のことを指す。前年に十分な栄養を蓄えた親竹が、旺盛に地下茎を伸ばし、多くのタケノコを地表へと送り出す。一方で「裏年」はその逆で、親竹の生育が一段落し、新芽の数が減ることで、全体の収穫量が落ち込む年となる。
このサイクルは、おおむね1年おきにやってくるとされており、農家や山林管理者にとっては、まさに自然との対話とも言えるリズムだ。ただし、最近ではこのサイクルが必ずしも規則的でなくなってきており、その原因として「気候変動」の影響が疑われている。
タケノコの収穫量を左右する要因は、表年・裏年だけではない。冬場の気温や降水量、春先の気温上昇のタイミングなども大きく影響する。つまり、タケノコの旬とは、自然条件が絶妙に噛み合って初めて成立する“繊細な奇跡”なのだ。
関東で豊作となった理由とは?
2025年春、関東地方では例年以上に多くのタケノコが収穫され、市場や直売所でも豊富に並んでいる。特に千葉県や茨城県などの産地では、3月中旬から本格的な収穫が始まり、4月上旬には「例年の1.5倍ほどの出荷量になった」という声も聞かれるほどだ。
この豊作の背景にあるのが、「表年」と呼ばれる収穫サイクルの影響である。関東では2024年が「裏年」にあたっており、収穫量がやや少なめだった。そのため、2025年は地下茎が栄養をたっぷりと蓄え、親竹が活発に活動する“当たり年”となったのだ。
さらに、2024年の秋から2025年の冬にかけての気象条件も、タケノコの成長にとって非常に好都合だった。特に冬の冷え込みが適度にあり、地中での発芽準備がスムーズに進んだ。また、春先の急激な気温上昇も、新芽の地表への発芽を後押ししたと考えられている。
現地の農家からは「今年は掘っても掘っても出てくる」「市場価格も落ち着いて、消費者にも喜ばれている」といった声も多く、地元スーパーでは「タケノコフェア」なども開催され、季節感あふれるにぎわいを見せている。
自然のリズムと天候の好条件がかみ合い、関東では2025年の春に“タケノコの当たり年”が訪れたのだ。
九州で不作となった背景を探る
関東の豊作とは対照的に、2025年の九州地方ではタケノコの深刻な不作が続いている。特に熊本や福岡、佐賀などの産地では、「1日に数本しか掘れない」「例年の3割程度の収穫量」といった声が相次ぎ、地元の直売所や市場にも品薄感が漂っている。
この不作の主な原因の一つが、「裏年」による影響だ。九州では2024年が「表年」にあたり、豊作の年であった。そのため、翌年の2025年は自然のサイクルとして「裏年」にあたり、収穫量が大幅に落ち込むのはある程度予測されていた。
しかし、それに追い打ちをかけたのが、冬から春にかけての気候条件だ。2024年の冬は例年に比べて暖かく、地中の温度が下がらなかったことで、タケノコの芽がしっかりと休眠できなかったと見られている。さらに、春先には少雨傾向が続き、地中の水分不足が成長を阻害した。これらの気候条件が複合的に作用し、裏年とはいえ予想を上回る不作となったのだ。
農家の間では、「気候が読めなくなってきている」「裏年でもここまで取れないのは初めて」といった不安の声が上がっており、タケノコ農業の将来に対する懸念も高まりつつある。
単なる裏年という一言では片づけられない、自然の複雑な変化が九州の不作の背景には潜んでいるのだ。
気候変動とタケノコの未来
ここ数年、タケノコの収穫量や旬の時期が、これまでの常識では説明できない形で変動している。その背景には、地球規模で進行している「気候変動」の影響があると指摘されている。
タケノコは、冬の寒さによって地中で芽の成長をいったん止め、春先の気温上昇とともに地表に顔を出すという非常に繊細な植物だ。だが、冬の気温が下がりきらない年が続くと、芽の休眠が不十分となり、芽吹きのタイミングがずれてしまうことがある。また、春先に気温が急上昇すると、タケノコが一気に伸びてしまい、「えぐみ」が強くなることや、品質が落ちることもある。
近年では、冬の暖冬傾向、春の極端な気温変動、さらには局地的な干ばつや大雨など、自然環境が不安定化しており、これが収穫量にも大きく影響を与えているのだ。特に九州など温暖な地域ではその影響が顕著で、これまでの経験則だけでは対応しきれない場面が増えてきた。
研究者の間でも、「これまでの裏年・表年の概念が崩れつつある」との声が上がっており、今後はより気象データに基づいた管理や予測が求められるようになってきている。
つまり、タケノコという自然の恵みは、もはや“気まぐれ”ではなく、“気候のバロメーター”とも言える存在になりつつあるのだ。
地域ごとの「旬」を楽しむ知恵と工夫
2025年春に見られたタケノコの地域差――関東は豊作、九州は不作という現象は、一見すると残念な話に思えるかもしれない。しかし、視点を変えれば、これは「旬の味わいを地域ごとに楽しむ」良い機会とも言える。
たとえば、関東では3月中旬から4月にかけてがピーク。市場や直売所では新鮮なタケノコが手頃な価格で手に入り、家庭料理でも「若竹煮」や「タケノコご飯」などが食卓に並ぶ機会が増える。一方で、九州などで不作の年は、地元の農家が工夫を凝らして保存加工品や水煮などに力を入れる動きも見られ、旬の味を長く楽しむ工夫がされている。
また、地域によってタケノコの種類や味わいにも違いがある。京都では「白子タケノコ」、熊本では「孟宗竹」が主流といったように、土地ごとの個性が味覚にも現れる。こうした違いを知ることで、ただ「豊作・不作」だけでなく、「どこのタケノコが、いつ美味しいか」という視点が広がる。
最近では、旬に合わせて「タケノコ掘り体験」や「農家レストランでの筍御膳」などの体験型イベントも各地で開催されており、自然の恵みを五感で味わう機会が増えている。
自然のリズムに寄り添い、地域の特徴を知りながら旬を味わう――それが、これからのタケノコとの上手な付き合い方と言えるだろう。
補足
本記事では、「2025年 タケノコ 不作 豊作」という旬のテーマを軸に、地域差の背景にある自然サイクルや気候変動、そしてその中でどう楽しむかという視点を取り上げた。食の情報は変化が早いが、タケノコのように自然に根ざしたものは、こうした理解が一層大切になる。
今年のタケノコを味わう際には、ぜひその「背景」にも思いを馳せてみてほしい。きっと、ただの食材ではない、“自然からのメッセージ”がそこにあるはずだ。
